椎名誠さんの自伝的エッセイの読む順番③
椎名誠さんの自伝的エッセイ。『哀愁の町に霧が降るのだ』に続き紹介するのは『新橋烏森口青春篇』と『銀座のカラス』。
この2冊は「エッセイ」ではない。
あくまで「小説」の書き方になっているのだが、椎名さんの「自伝」の流れを楽しむためには必須の本だろう。
その後、再び椎名さんはエッセイ形式に「自伝」を戻していくので、違和感を感じる。
ただ、これには事情がありそうだ。
この2冊は椎名さんが業界紙に勤務をしていた時代の話が描かれている。そのため、あくまでフィクションということで、「小説」の形式をとらなくては表現がしづらかったのだろう。
特に「銀座のカラス」は名前も本人を含めて本名ではない。
なので、あらためて振り返ると、とても違和感を感じることは確かだ。「自伝的」の流れの中では違和感もあるが、この2冊はドラマ化もされており、椎名さんの代表作であることも確かである。
続いては『本の雑誌血風録』。
その後、盟友として「本の雑誌」を作り上げる目黒考二さんとの出会いや、その「本の雑誌」の創刊当時のエピソード、さらにはエッセイストとしてデビューする、その瞬間が描かれている。
個人的には、椎名さんの「自伝的」シリーズの中では、もっとも好きな作品だ。
シリーズのメインキャストである沢野ひとしが手掛けるイラストのような4コマ漫画も面白い。
本書で私はとても印象的な思い出がある。
作中で椎名さんと漫画家でエッセイストの東海林さだおさんが対談したことが触れられている。
そこでは、納豆ご飯を食べる際、納豆をかきまぜて、その後、ごはんに納豆を乗せるが、そのまますぐに食べてはいけないという。納豆が興奮状態のため、すこし納豆の興奮をおさえるために、時間をおいて、それで食べたほうがおいしい、ということが書かれている。
私がこの箇所を読んだのは夜中であった。
この納豆ご飯をどうして試したくなり、すぐに夕食の残りのご飯で納豆ご飯を作った。
そして、数年後。
私が読んでいた『本の雑誌血風録』を私の妹が読んでいたのだが、おもむろに、妹は台所に向かい、納豆ご飯を作り始めた。
もちろん、その椎名さんと東海林さんの対談の箇所を読んだからだ。
食べ物の話を書いていて、それを実際にすぐに試させるなんて、あらためて、椎名さんの表現力の高さを認識させられた。
続いては「新宿熱風どかどか団」と「新宿遊牧民」。
「本の雑誌血風録」と比べると、この2作品は「落ち着いている」という印象。
私が生意気に言うことではないが、椎名さん自体が作家として成熟していったことから、抑制がきいている内容になっている。
また椎名さんがエッセイスト、小説家として独立してからのエピソードであり、他のエッセイ等で読んだことがあるものが多い。もちろん、椎名さんワールドの一定のクオリティは担保されていることは間違いないが、「バカ話」から「大人のエッセイ」に変貌を遂げている。
――パート④へ続く。